読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

宇宙、日本、阿佐ヶ谷-「ぼくらのよあけ」

f:id:anoco:20120312225204j:plain

最近友だちに貸してもらった「ぼくらのよあけ」という漫画が面白かった。彗星が地球に接近するひと夏を過ごす少年少女と大人たちのお話。

ストーリーもさることながら、子どもたちの日常とそれを取り囲む進化したテクノロジーの描写がすごくよかった。もっと言うと、進化したテクノロジーが教育的観点から正しいあり方であろうとすると、子どもたちをガジェットを通して見えない糸でがんじがらめにしまうところ。さらに思春期にさしかかろうとする少年や少女たちが自らその糸をこじらせる具合がとてもリアルで、時々少しぞっとする感じすらした。

わたしは科学技術にどうこう言える程の知識はないし、時代考証的に正しい描写なのかは分からないんだけど、今自分が手にとれるものから想像しうる、ぎりぎり自分のいる場所からずっと先にいるのがぼんやり見えるような「2038年」という設定がよかったのかもしれない。でも、2038年にはまず間違いなく現在老朽化・取り壊しの話が進んでいる阿佐ヶ谷住宅は存在し続けていないだろうというのもわたしは知っていて、心のどこかでちゃんと「これはファンタジーだ」と思いつつ読んでいた気もする。

 --------

つい先日iOS5.1が発表になり、iPhone4sユーザーは日本語対応したsiriを使えるようになった。「siriは便利だ、そしてなんだか憎めないキュートなキャラクターだ」という話が耳に入ってくる。わたしはiPhone4sを持っていないので、楽しそうで羨ましい。

作品内に出てくる「ナナコ」をはじめとした「人々の生活をサポートするためにかなり高度な知能を持った」小型の人工知能ロボットたちは、そのsiriを連想させる。もちろんその二つははっきりとした線で直接結びついている訳ではないけれど、わたしは手元にあるiPhoneを見て(ま、わたしのはsiriが入っていないのだけど)、この作品を読んで、「ああ、こういう世界に遠からず繋がっていくのかな」と思った。便利だな、悪くない、と思ったりもする。

その一方で、作品の中ではテクノロジーの進化によって人間関係における弊害が生み出されていることも描かれている。人間関係が全てデータ化・可視化されつつある世界。小学生の子どもたちも当たり前のように携帯のガジェットを通して複数のSNSアカウントを使いこなして暮らしている。2012年の今でさえSNS疲れは社会現象になりつつあって、うまく距離を取って行かないと大変なのに、2038年のSNS疲れたるやどんなものだろう。

 --------

SNS疲れとは少し違ってくるが、会社のPCで、わたしはIPメッセンジャーを使っている。あんまり使ってはいないけど、使えるようになっている。わたしはそのメッセンジャーが日に日に苦手になっている。なぜならそれが完全に愚痴や陰口を言い合うためのツールになっているからだ。目の前と隣に座っている人たちが黙々とIPメッセンジャーで会話をしている。表立って言えない話だから、人に聞かれたらあまりよくない話だから、という理由で。嫌なことがあると、隣の席の先輩に小さなウィンドウが立つ。普段はおしゃべりな先輩が無口になると、黙ってその小さな小窓に向かって延々タイプし続けていることが最近増えた。

わたしはそれらのやりとりにほとんど参加しない。興味がないし、できればその愚痴の輪には混ぜてほしくない。社内における表層的な会話が発生する一次的な人付き合いだけで十分だし、二次的な人付き合いに対して業務中にわたしはリソースを割けない。他人の目線に耐えうる二重の顔を持つのはとてもエネルギーがいるからだ。

 --------

作品に話を戻す。物語の中で、とある女の子がクラスの女の子との確執を起こす。クラスの女の子たちはみんな、うわべだけの人間関係に必死についていこうとし、同じような服を着て、同じようなものを食べて、常に気持ちは同じになくてはならない、常に周りの様子を窺い調子を合わせる。そこから少しはみ出した人を軽い「いじめ」のターゲットとして、誹謗中傷する。しばらくすると飽きて、次のターゲットを作る。そんなことを繰り返す。そんなクラスの女の子たちを、その子は「バカみたい」と思っている。

ある日女の子が携帯のようなガジェットツールを取り出すと、SNSのTLのようなところで自分のことを悪く言うやりとりがものすごいスピードで流れてくる描写があった。そのガジェットは、その陰口を運ぶ役割として、とても嫌な感じでその便利さを表していた。女の子は何とも言えない顔でそれを眺めている。今のわたしがIPメッセンジャーに抱く嫌悪感と同じような気持ちが、そこにあった。

思春期の女の子同士は難しい、さらにこんな人間関係を全部可視化するようなツールに囲まれたらどうなってしまうんだろうって思った。でも同時にすごくそこが面白いなとも思った。こんな環境で、どんな大人になって行くんだろうっていうことにとても興味がわいた。未来でどんなガジェットが使われているか、というより、どんな風に使って、どんな風に人の心に影響を及ぼしていくんだろうということをいろいろ考えさせられた。

今回のお話ももちろんよくできていて、面白かったのだけど、もし機会があればあの子たちの未来の話がもっと読みたいとそう思わせる作品だった。

本来作り手が描きたい本筋と外れたところで大いに興味を持ってしまったのだけど、とてもおすすめの作品。