20231031 「ディス・イズ・ザ・デイ」とチームのファンであること

晴れ。

日記に書きそびれていたが、日曜日にやっと津村記久子の「ディス・イズ・ザ・デイ」を読み終えた。プロサッカーの架空の二部リーグが舞台で、各チームのファンから見たシーズンの最終節を描いた群像劇。各チームのエンブレムを眺めながら読み進めるのがとても楽しい、いい本だった。おすすめしてくれた友人に感謝。

 

これまで特定のスポーツチームに思い入れを持ったことがなかったわたしだが、他のスポーツ、かつド新規ファンであってもいろんなエピソードで「わかる、わかる」となる描写があちこちに出てきて、そのたびに「そうなんだよ~~!」と膝をぽんぽん叩いた。チームの調子が良い時も悪い時も自分の生活は続くし、自分の生活が楽しい時も苦しい時も悲しい時もチームはそこにあるということが穏やかだけど豊かな筆致で描かれており胸を打たれた。

特に素晴らしいなと思ったのは最終章のこのくだり。ここにこの本の描いていたことのエッセンスがぎゅっと詰まっている。

歓声を聞いていると、功は自分がただフィールドを眺めながら人々の声と熱を受信する装置になったような気分がした。そして瞬間の価値を、本当の意味で知覚しているような思いもした。人々はそれぞれに、自分の生活の喜びも不安も頭の中には置きながら、それでも心を投げ出して他人の勝負の一瞬を自分の中に通す。それはかけがえのない時間だった。

功は、自分が大林のスタジアムで何度も「もういい」と思ったことを思い出した。もういい。何も後悔のない人生などない。それでも満足のいく一瞬がどこかにあればそれでいい。(「ディス・イズ・ザ・デイ」第11話 海が輝いている P375‐376)

話としては「第8話 また夜があけるまで」が好きだった。

最終節の試合を見に遠征した主人公が、偶然知り合った対戦相手のチームのサポーターと交流を深めていく話。だんだん相手の(応援するチーム的な意味での)素性が分かっていく様子になんともいえぬスリリングさがありぐいぐいと引き込まれた。

また、主人公は最初空港発のバスに乗り遅れて始発まで移動手段がなくなり半ば閉じ込められているような状況になるのだが、わたしも同じような体験をしたことがあった。フジロックに日帰りで参加し、予定では翌朝まで会場にいるつもりだったものの途中で片頭痛発作を起こして会場の大きな音に耐えられなくなり越後湯沢の駅まで出て人気の少ないバスロータリーで朝を待ったことがあった。あの静かで寄る辺ない空気がこの話での空港付近にも宿っていて、何だか懐かしかった。変な共感ポイントだが。

 

今日は仕事中に雑談のチャットが別部署の同僚から飛んできて、ぽつぽつやりとりしていた。ふと相手が熱心なサッカーファンだったことを思い出し、勧めたところこの本を貸すことになった。人に貸すつもりがなく風呂で読んでページが少々べこべこになっているのは許してほしい。栞なんて湯船に落としたのでもうガタガタだ。

わたしが最近急にBリーグに夢中になっていることを話すと、とてもうれしそうに「それはいいですね、最強のエンタメはスポーツだと思ってるんです」と言っていた。最強かどうかは分からないけれど、スポーツの楽しさの片鱗が理解できるようになってわたしも嬉しいと思っている。

「ディス・イズ・ザ・デイ」を読んでよかったと思うことの一つに、「ファンはこうあるべき」という思い込みを崩してもらえたことがある。ファンは熱心であるべきだし、熱心であるほうがえらい、ファンはそのスポーツのことを深く理解していなければならないし、きっかけはそのスポーツ自体の魅力に由来するべきだ。そんな「べき観」がうっすらとわたしの中にはこれまであったのだが、応援する気持ちの濃淡も、入口がどこであるかも、どういう形の応援なのかも全て自由なのだというのを教えてくれた。ファン一人一人にそれぞれの応援のあり方やそこに至るまでの物語があり、いろんな気持ちを抱えながら試合会場に集まったりテレビや画面の前で試合を見ていると思うと、なんてすごいことなんだろうと素直に感動してしまう。スポーツで人々に元気を与えるとか感動を与えるというフレーズはあまり好きではないが、割と実際そうなんだなと思う。

 

ところで今日仕事が終わって旧Twitterを眺めていたら、川真田選手のインタビュー動画がチーム公式からアップされていて「おっ!」と思って喜んで再生したら51分もあって過剰供給に動悸がして一旦停止してしまった。あとでじっくり見ます…。公式様ありがとうございます……。タイムラインを見ていたら、琵琶湖方面はみな楽しそうに動画を見ていて、「マイキーはエゴサするなら感想も伝わるようにちゃんと書かないとな」などとキャッキャしていて先日あんなに殺伐としていたのがマイキーによりタイムラインに再びハピハピ具合がもたらされたのであった。ありがとうございます。たまたまなんだろうけど、最高のタイミングだよ。

youtu.be